湘南(鎌倉、藤沢、茅ヶ崎、平塚、大磯)のサーフィンの歴史は、日本のサーフィンの歴史とともにあるといっても過言ではないでしょう。日本で最初の海水浴指定海岸としての大磯海岸を始め、サーフィンだけでなく、多くのマリンスポーツの始まりと発展に大きく関わっています。
とりわけここ茅ヶ崎は、多くの諸説がある中サーフィンにおいて最も古い起源を持ち、またサーフィンの近代化に多くの影響を与えたとして知られています。


◆現存する我が国最古のサーフボード

ここ茅ヶ崎には、おそらく最初に日本に持ち込まれた最も古いサーフボードであろうとされる「証拠」となる一枚の写真と「現物」が存在する。15年程前に茅ヶ崎市が編纂した写真集「茅ヶ崎〜きのう きょう〜」の中に、昭和10年頃撮影と説明されている一枚の写真がそれだ。1920年代後半頃という事になる。当時ハワイのワイキキで人気のあったレッドウッド製ではないかと推測され、ハワイのビショップ博物館に同タイプのものが展示されている。サーフィンの神様デューク・カハナモクらが乗っていたのと同じモデルのものである。
しかもその現物は、日本の名映画監督「小津安次郎」の常宿と知られる老舗旅館「茅ヶ崎館」の倉庫に多少の変化はあるもの、朽ち果てる事なく原形を留めて現存している。
長さは約9ft(約2.7m)重く堅い一枚の板からできている。ノーズにはロッカーも施されているが、フィンが登場する前だからボックスの跡はない、まさに80年程前の「波乗り板」である。

■写真集「茅ヶ崎きのう・きょう」
の中の一枚。昭和10年代初期
(茅ヶ崎市所蔵 転用無用)
■5代目館主森氏が持つ
 最古のサーフボード(07年6月撮影)
   
◆日本人で始めて波に乗ったのは誰か?

サーファーなら誰もが抱く疑問。日本で始めてサーフィンをしたのは、太平洋戦争終戦後、つまり1945年頃当時の米兵進駐軍(GI)が最初ではないかと言われてきました。
それがそれから約20年以上も前に、ここ茅ヶ崎にサーフボードが存在していた事実が発見されました。それは茅ヶ崎館初代館主の森信次郎が粋な出立ちで、見るからに古そうなサーフボードの横に立つ一枚の写真がそれだ。
信次郎は幕末でありながら10代で渡米し、後に日本郵船の御用船で機関長を勤めた後、茅ヶ崎館を創設。また2代目信行も、茅ヶ崎で最初に車を購入したり、赤いインディアンバイクを乗り回したりと二人ともかなりのハイカラな「湘南ボーイ」でした。初代が持ち込んだサーフボードは、当時旅館の宿泊客に現在のサザンビーチ…当時の茅ヶ崎浜で、夏の遊びとして「波乗り板」を利用していたらしい。初代か二代目が試したか遊んだであろうから、どちらかが日本で最初にサーフィンをしたであろうと思われる。この一枚の写真が日本のサーフィン史を探る上で、大きな意味を持つ事には間違いないでしょう。
■ハワイの博物館に展示されてる昔の「板」 ■現存する最古のサーフボード(07年6月撮影)
   
◆そして偶然が再び歴史を蘇らせた。

それから夏場にしか活躍しなかった「板」は、その後旅館の庭で「ベンチ」に姿を変え、来る時を待つ事になる。やがて二度目の奇跡が訪れる。ある日、本組合初代会長鈴木正氏は、友人であるカリフォルニアのレジェンドサーファー、ボブ・ピアソンとハワイのハンス・ヒーデメンを当館の中庭のベンチに腰掛けて待ち受けていた。しばらくは普通のベンチだと思っていたが、他とは違う感触に気付き、後から来た2人を交えよくよく見るとそれがサーフボードと判明したのだ。こうして偶然発見されたのは、鈴木氏が日本的情緒に加え、名旅館としての茅ヶ崎館を海外からの来客用に、度々利用していた事が「波乗り」の運命を長い時を超えて結び付く事となった。
茅ヶ崎館は、小津安次郎監督が脚本執筆のため十数年間に渡り利用した、邦画ファンには知れ渡る名旅館である。長い時には、半年近くにもおよぶ滞在もあったという。その間、映画史上に残る名作「東京物語」「晩春」などが執筆されたが、彼を訪ねて来た原節子や数々の俳優達も、この「板」に腰掛けていたのではなかろうか。いろんな意味で数奇な運命を辿ったサーフボードは、茅ヶ崎館で手厚く保存され、今なおサーファーのロマンを掻き立てる事になる。

   
■創業100年を越える茅ヶ崎館の佇まい


■小津安次郎が愛した二番の部屋


(取材協力:茅ヶ崎館5代目館主 森浩章氏 http://www.chigasakikan.co.jp/hanare.htm
      ゴッデスインターナショナル代表 鈴木正氏 http://www.goddess.co.jp/ )
(写真提供:茅ヶ崎館、茅ヶ崎市、柾木太郎氏)


 
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